ニランバ語動詞の語幹冒頭と接頭辞

湯川 恭敏

ニランバ語 (Kinílamba) というのは,タンザニア中部に話されるバントゥ系の言語であり,話者人口は20万人ぐらいである。
一般のバントゥ系言語では,動詞語幹の冒頭が音韻交替することは原則としてないが,この言語ではその現象が存在し,かつ,それに応じてその前の接頭辞の母音が交替したり,ある接頭辞があらわれたりする。不定形においては,たとえば次のごとくである。
kushamba 「蹴る」,        kunshamba 「私を~」,
kukumusamba 「彼を蹴る]
すなわち,対格接辞(上の n, mu)があらわれないか,単数1人称のそれ (n) があらわれると,語幹冒頭の子音が sh,j あるいは口蓋化された子音であらわれ,それ以外の場合は,s,z あるいは口蓋化されていない子音であらわれる。 さらに,sh 系列の子音があらわれると不定形接頭辞 ku が ku となる(u は広いウ,u は狭いウ)。また,単数1人称以外の対格接辞の前には ku(または ki)があらわれる。
ishamba 「彼らは蹴っている」,
inshamba 「~私を~],
akumusamba 「~彼を~」
ここでは,sh 系列の子音の前で主格接辞がそうでない場合と異なる(上の i と a)。語尾が a 以外の形ではそうしたことはない。
asaḿbile 「彼らは(たった今)蹴った」,
ansaḿbile 「~私を~」,
amusaḿbile 「~彼を~」
語幹が元来母音ではじまる動詞では,sh 系列の子音が語頭に立つ形において,y があらわれ,次の母音が長くなる。
kuyííta 「呼ぶ」 < kuita
このような現象を記述し,かつ,対格接辞のあらわれない不定形が過去のいずれかの時期に i +語幹+ a であったと推論することを骨格として,通時論的説明をも試みたのがこの発表である。