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アルタイ諸語における序数詞形成接尾辞について

山崎 雅人

チュルク語の序数詞形成接尾辞には,トルコ語等の -inci/-üncü/-ıncı/uncu (タイプ1)とカラガス語等の -(ы)шкӣ/-(и)шкӣ(タイプ2)の2種類がある。後者は本来の序数詞形成接尾辞 (-ш<-nč)に,時間・空間の形容詞を作る接尾辞の -кӣ が付いたものである。また,満州・ツングース語にも満州語等の -ci(タイプ1)と,エウェンキー語等の -(g)ī(タイプ2)の2つがある。
卑見によれば,両言語のタイプ1同士,タイプ2同士を関係づけることが出来るのではないかと考える。前者については既に指摘されたことがあるが,チュルク語における鼻音の存在からそれに反対する説もある。しかしチュルク語のタイプ1は二つの形態素の合体と見なすことができ,-čy/-či だけを序数詞形成接尾辞として有する方言もあることから,満州・ツングース語がその接尾辞を借用した可能性を考えることが出来るだろう。後者については,カマス・サモイェード語の序数詞形成接尾辞 -git と関係づけられるとする見解もあるが,長母音の対応からもチュルク語のタイプ2との関係の方が蓋然性は高いと忌われる。尚,-к- > -g- は母合間での有声化によると考えられる。
さて,これらの序数詞形成接尾辞は,年数や年齢などの「時間表現」のために借用されたのではないかと思う。古チュルク語を始めとしてウイグル語,ウズベク語においても,また満州語,エウェンキー語でも両言語のタイプ1は年数・年齢の表記に用いられる。他方,ツングース語のタイプ2に時間の形容詞を作る -pti が付くのも,序数詞が年齢のような時間を表すための語と見られたからであろう。一般に,蒙古語を介しないチュルク語と満州・ツングース語の間の語彙の借用は極めて少数とされるが,チュルク族が西遷する以前の古い時代であれば,これらの言語間での直接的な接触があった可能性が考えられるのではないだろうか。

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