北パキスタン諸言語での名詞反響

吉岡 乾

南アジアの言語にはいわゆる「反響」と呼ばれる表現が多く見られる。本発表は,パキスタン北部の5つの言語(ブルシャスキー語・ドマーキー語・シナー語・コワール語・カラーシャ語)の名詞反響を対象にして,そのルールの言語間における異同を調べることを目的とする。
現地調査データに基づいた考察から,以下の点が明らかになった。i. 反響に用いられる音としてはm・ɕが地域普遍的である;ii. 東と西とで,完全重複をしない言語とする言語とにタイプが分かれる;iii. 完全重複をしない言語の中にも,同一性回避しかしない言語と,類似性回避もする言語とがある;iv. 残りの言語には,反響に典型的な機能を持つ完全重複形式が現われる。
さらに従来の反響の定義に適合しないiv.の点に関しては,見た目は完全重複のように見えるものも実は反響であると捉えるか,反響の定義を機能面からするかで解決が図れるということを指摘する。