クルフ語・マルト語の動詞活用の史的再建

小林 正人(白鷗大学)

クルフ語とマルト語は,ブラーフーイー語とともにドラヴィダ祖語からもっとも初期に分化した言語と考えられている。両言語は系統的にきわめて近い関係にありながら,動詞活用が少なからず異なるため,どのような共通形から発展してきたかが十分に解明されていない。本発表では,現地調査で得たマルト語諸方言の動詞活用から,マルト語の方言は従来考えられてきたように内婚集団によって三分するよりも,地理的に北・東・中・西・南に五分したほうが理解しやすいことを示した上で,クルフ語との比較を行った。

クルフ語の動詞活用を,これまで記述されていない西・南方言を含むマルト語形と比較してみると,祖語の非過去形がマルト語で未来形と現在形に分かれて発展した一方,クルフ語は様態の接辞で未来形を作ったと推測される。両言語の過去形は過去語幹,a接辞,時制接辞の三要素で形成され,そのうち過去語幹やa接辞は起源が古いと考えられる。