音節末における側面音のソノリティーおよび音節構造との関わりについて:
フランス語からの形態音韻論的考察

桑本 裕二 (秋田工業高等専門学校)

一般に,ソノリティーの大きい分節音ほど音節の端に立ちにくいといわれている。本発表ではフランス語の側面音を扱い,鼻音や他の阻害音との異なるふるまいを観察し,最適性理論の枠組みで捉え直した。フランス語の側面音 /l/ は,soleil [sølj] の /-j/ や,複数形形成でのcheval / chevaux [ʃʎval / ʃʎvo] の /-o/ のように先行母音と融合し高母音化する。これは鼻音と同じくソノリティーが大きいことに起因しているといえるが,さらに出力で音形を持たない複数語尾 –sがcodaとして音節化されると見なすことによって /l/ のもつ [high] の先行母音への融合が説明できる。さらに,男性単数第2型をもつ形容詞の活用(beau / bel / belle [bo / bl / bl] m.(I), m.(II), f.)は,後続語との間の音節化による /l/ の出没が極めて規則的であると再解釈でき,第2型 bel の場合には鼻音が鼻母音化するほどの母音への融合を見せないものの,鼻音の場合と同様の評価表によって最適形が選択されうることを導いた。