日本語の準体法消失に見る形式的な区別の消失に対する補償

杉浦 滋子 (麗澤大学)

日本語における準体法の消失については,準体法の消失を「の」以外の形式名詞及び「の」が補償したという見方(信太1976)と,「の」が発達したことが準体法を衰退させたとする見方(青木2005)がある。『平家物語』巻一に見られる連体形のうち命題の名詞化と判断できる例文を分析したところ,無助詞である場合と「の」が後接する場合に「こと」が用いられているのを除くと,ほぼすべて準体法が用いられていた。つまり,ほかの形式的手がかりから命題が名詞化されていることを読み取ることができる場合には準体法が,そうでない場合には形式名詞が用いられたのである。よって,信太(1976)の見解に従うべきである。

また準体法の消失を「連体形によって認可されていたゼロ形式が連体形の消失によって認可されなくなった」という変化としてとらえると,上の段階が存在することは説明できない。

[参考文献]青木博史(2005)「複文における名詞節の歴史」『日本語の研究』1-3,信太知子(1976)「準体助詞「の」の活用語承接について―連体形準体法の消滅との関連―」『立正女子大学国文』5