幼児の単文理解における文脈情報の利用可能性と作動記憶

水本 豪(九州大学大学院)

これまでの言語獲得研究において、その発達差を表すための基準は専ら年齢に基づくものであった。幼児は言語の発達とともに様々な他の能力も同時に発達しており、多くの場合、それらは年齢とともに発達している。ところが、実際にはそれら種々の能力の発達は同じ年齢の幼児でも様々である。本研究ではそのような能力のうちでも作動記憶に着目し、Otsu (1994)、團迫 (2005) によって示された、単文理解の際に適切な文脈を併せて呈示することで理解が促進されるという事実に関して、年齢に基づく分析では見出せなかった以下の点が作動記憶容量に基づく分析により取り出すことができることを示した。

(i) 文脈情報を適切に利用できるのは作動記憶容量が比較的大きな被験児のみであり、必ずしもすべての幼児において観察される特性ではない。
(ii) 作動記憶容量の大きい被験児であれば、理解が困難とされる目的語分裂文に対しても高い正答率を示す。