北京・上海・ソウル方言話者の日本語破裂音の範疇知覚について

福岡 昌子 (三重大学)

 中国人及び韓国人学習者は日本語の破裂音習得が難しい。本研究では、2項対立の破裂音を持つ北京方言話者、3項対立の破裂音を持つ上海・ソウル方言話者が、日本語の破裂音をどのように知覚しているのか、VOT という音響的尺度を使って範疇知覚を調べた。語頭 (「ぱです」「ばです」) の VOT が-100msec から+100msec まで 10msec毎に異なる 21個の合成音声及び語中 (「あぱです」「あばです」) の VOT も 13個異なる合成音声を作成し、各方言50名ずつ計150名の日本語学習者及び 50名の日本語話者に聞かせ、有声か無声か同定させてその違いを見た。その結果、語頭では、北京方言話者は VOT が+20msec と+10msec の狭い範囲に存在し、上海・ソウル方言話者と日本語話者は+20msec から-10msec にかけて範疇知覚が広く存在した。ソウル方言話者は語頭の「ぱ」と「ば」の範疇の境界がどこにあるか判別できたが、有声・無声破裂音の違いが声帯振動の有無からでは判別できなかった。一方、語中ではソウル方言話者と日本語話者の間には範疇知覚の違いはなかった。